依存症の原因Cause of addiction
依存症の原因については、今なお、多くの専門機関で研究が進められており、依存症の原因や治療方法は、研究によって日々更新され、医療現場に反映されています。 ここでは、代表的なものをいくつか紹介します。
遺伝的脆弱性
近年の研究では物質依存の発症しやすさと遺伝との関連が報告されています。 アルコール依存については家族内での遺伝が数値的に報告されています。アルコール依存者の約3人に1人がアルコールを乱用する親を持っており、アルコール依存の父を持つ子どもの4人に1人は、自身がアルコール依存になりやすいといわれています。 双子研究ではアルコール依存の一致率は二卵性より一卵性の方が高い結果が得られています。このため遺伝の影響が強いと考えられています。アルコール依存の発症に遺伝要因が占める割合はおよそ2分の1から3分の2と推定されています。例えばアルコールを体内で分解する酵素を生来多く持っているか否かで、アルコールに強い体質か否かが決まります。この体質はアルコール依存症の遺伝に強く影響を受けます。
神経生物学的要素
アルコールや薬物を長期にわたって乱用すると、脳内の神経細胞の機能が変化し、報酬効果(快感や喜び)を徐々に得にくくなります。快感や喜びなどの報酬効果を得るために、より頻回により多量に薬物を使用するようになります。例えば、アルコール使用者の場合では心地よい酔いを得るために飲むアルコール量が徐々に増えていきます。
近年の研究結果では、脳内の神経細胞の機能変化が、不安や抑うつ症状の原因になるとされ、それらの精神症状を緩和するために、ますます物質を使用するようになるとの報告もあります。
条件づけと使用欲求
ストレスや不安を解消するため、気分を改善するために、アルコールや薬物を使用しているうちに、徐々に使用量が増加していき、結果として依存症になります。このしくみは「条件づけ」という理論で説明されています。嗜癖行動は条件づけ理論によれば、報酬によって強化・学習された習慣のことです。ある行動で一度味わった楽しかった・心地よかった体験が次の行動の起因となってその行動を繰り返し行ってしまうということです。 条件づけされ習慣化された物質使用と密接な関係にある刺激(注射針、薬物の売人、飲み屋、酒の臭い、テレビCMなど)が手がかりとなって、物質の使用欲求が誘発されることが研究結果として知られています。例えば、暑い日に焼き鳥を見たり匂いをかいだりするとビールが飲みたくなるといった反応です。 欲求は単に依存症の発症と持続に関係するだけでなく、再発にも関与することが報告されています。
心の脆弱性
以前の研究では、依存症になりやすい性格や人格に関する言及もありましたが、近年では、特定の人格傾向が物質依存の原因になるとはいいがたく(エビデンスが少ないため)、むしろ物質に依存した結果としてある特定の人格傾向になる可能性が大きいとされています。わかりやすく言いますと、薬物依存症のひとつであるニコチン依存症の人の人格に問題があるとは一般的には余り考えられません。
社会学習理論
生育環境や社会環境から受ける影響によって嗜癖行動が増進されることがあります。たとえば、子どもの頃から周囲の大人が美味しそうにアルコールを飲み楽しそうにする姿を見て育つと、子どもはアルコールは美味しいものなのだ、飲むと楽しくなるものなのだ、大人になったら飲んでみたいと学習します。
テレビのCMにも同様の効果があります。このように環境から刷り込まれる学習効果というものも原因のひとつとしてあります。