アルコール依存症 減酒外来Alcohol Harm Reduction Program
減酒(節酒)外来とは?
従来のアルコール依存症の治療は、必ず一生涯お酒を止め続ける(断酒)ことを目標としていました。
一方で、減酒(節酒)外来では、従来の断酒治療とは大きく異なる点があります。それは、最初からお酒を完全に止めなくてもよいということです。減酒(節酒)外来では、お酒の量を減らし問題を軽減することを目標とします。これにより「完全にお酒をやめたくはないけど、もう少し量を減らしたい。」という方の希望に沿うことができ、こういった軽度の患者さんにとっては受診がしやすくなります。
減酒(節酒)外来のメリット
症状が軽度の場合
- ・病状が重症化する前に治療を受けることができるため、早期回復が見込める
- ・肝機能値、血圧値、糖尿病、高脂血症などの身体問題が改善する
- ・多量飲酒してしまう日数(二日酔いになったり記憶を無くしたりする経験)を減らすことができる
- ・休肝日が作れる
- ・必ずしも断酒しなくても、お酒の量を減らすことで飲酒による様々な問題を改善することが期待できる
症状が重度の場合
- ・治療に対する抵抗感が和らぐ
- ・すぐにお酒をやめることができない場合、飲酒量を減らすことによって現状に比べてある程度の害(健康面・社会面・対人関係)を減らせることが期待できる(=ハームリダクション)
- ・寿命が延びる(死亡率が減少する)
- ・初めは断酒の決心がつかなかった人でも、減酒を成功することによって断酒への自信につながることがある
減酒(節酒)治療の対象
軽度の患者さんを対象としております。
*例えばこんな方
- ・お酒とうまく付き合っていきたい
- ・家族や同僚、友人からお酒を減らした方がいいと心配されている
- ・健康診断でいつもお酒を減らすように言われている(例:糖尿病、高脂血症、高血圧など)
- ・ついつい飲みすぎて記憶を失くしてしまう(ブラックアウト)ので何とかしたい
- ・お酒の量をコントロールしたい
- ・身体のことが心配なのでお酒の飲み方を見直したい
- ・二日酔いで仕事に影響があるので何とかしたい
- ・お酒で失敗しないようにしたい
- ・休肝日を作れない
上記のように、たまにお酒で失敗をしてしまうことがあるものの、大きな問題には至らない…そんなお酒好きな方も対象となりうるのです。
減酒(節酒)治療における薬物療法(セリンクロ)
現在、日本において減酒治療で使用できるお薬は、2019年3月に発売されたセリンクロ(一般名:ナルメフェン)のみです。
従来の抗酒薬(ノックビン、シアナマイド)は抗酒剤を服薬中にお酒を飲むとアルコールの分解酵素の働きが阻害され、ひどい二日酔いの状態になります。これを経験した患者さんの中には、二度と同様のひどい目にあいたくないと断酒を意識するようになる方もいます。一方で、この不快感を避けるためにそもそも抗酒剤を服用しなくなってしまう患者さんもおります。こういった服薬の中断を防ぐためには、周囲の人が服薬を管理する必要がありますが、患者さん本人はそれを嫌がる人も少なくありません。
一方で、セリンクロは服薬しても従来薬(ノックビン、シアナマイド)のような不快な感覚になる薬効はありません。飲みたくなる気持ち(欲求)そのものが抑えられるのです。欲求が抑えられれば、少量のお酒で満足できます。その結果、服薬が継続し、飲酒量・多量飲酒日が半分に減るという報告がされています。
体験談
30代 男性
就職してから仕事終わりに誘われてよく飲みに行くようになりました。最初は同僚と日々のストレスを発散するために飲んでいましたが、徐々に酒量が増え、ついつい飲み過ぎて記憶を失くしたり(ブラックアウト)、物を失くしたりすることが増えてきました。同僚や友人との飲み会がない日は、自宅で飲むことが増えつつも楽しみでありました。同僚や家族から「飲み過ぎでは?」と心配されるだけでなく、健康診断でも肝機能の悪化を指摘され、自分でもお酒の量を減らそうと試みているが、なかなか上手くいかない状態が続いていました。お酒の量を減らしたい、飲み方を見直してみたいと頭では、思っていてもまだ断酒の決心がつきませんでした。
そんな中、かかりつけの内科の先生の勧めもあり、インターネットで調べ、受診を決めたのが大石クリニックでした。受診の決め手は、外来通院しながらお酒の量を減らす(減酒治療)プログラムがあること、しっかりとしたサポート体制が整っており安心して受診できることです。
初めは、断酒を強く勧められるのではないかと半ば不安で心配でしたが、事前の問診票に自分自身の治療目標や希望を記入したことで、初診時に医師と自分に合った治療について相談することができました。
医師の勧めもあり、セリンクロというお薬も飲みながら通院していますが、受診当時と比べるとお酒の量も半分くらいに減っていますし、記憶や物を失くすこともなくなりました。現在も飲酒状況などのチェックを欠かさずに行い、仕事を続けながら定期的に通院することができています。
50代 女性
私の父は今年で82歳になりますが、5年前に認知症の診断を受けました。もともとお酒が好きな人でしたが、定年してからは暇を持て余したためか一日中お酒を飲むようになりました。それまではアクティブに活動する人でしたが、朝からお酒を飲んでは寝るという生活をくり返すようになってからは自主的に動くことが少なくなりました。家から出なくなったこともあり、認知症の症状が進んでしまったのだと思います。また、父は長年の生活習慣の乱れから糖尿病と肝障害を患っており、余命は1、2年だろうと言われていました。それでもお酒を飲み続けてしまうため家族は心配してやめさせようとしましたが、全く理解できません。そこで、内科の先生に相談し大石クリニックを紹介してもらいました。
しかし父は高齢で認知症もあるため自助グループに行くことができず、依存症の本を読んでもその内容を理解することができません。自分のことを話すことすらままならない状態です。そんな父でも受けられる治療があるのか不安でしたが、先生からはセリンクロによる投薬治療を勧められました。すると、これまでビール缶6本以上を飲んでいた父が、2本の途中で残すようになったのです。それだけでなく、十分にお酒を飲んだと満足しています。それからは家族が無理矢理止める必要がなくなりました。あれだけ先生から懸念されていた糖尿病や肝障害の病状も落ち着き、この状態が維持できれば長生きできるだろうと言ってもらえました。
父のように依存と認知症が合併している人にとって、減酒という新しい選択肢は大きな救いだと思いました。