院長あいさつ
もう20年以上も毎日毎日・・・アルコール依存症の患者さんの話を聞いてきました。よくもあきもせずとも思いますが…でもこの20年間にも変化もありまして…第1は高齢化。なにせ80歳を過ぎて1年断酒の祝いをする患者さんも珍しくなくなりました。第2は早期発見・早期治療とでも言いましょうか。会社を首にならないように、何とかしてほしい。この年でリストラされては家族が困るので・・・という患者さんも増えました。第3は多様化。酒、薬はもちろん、ギャンブル、買い物、性と依存対象は広がりました。第4は無職の人に仕事をするようにという国の方針でしょうか。社会的な影響を受ける病気なので、これにいかに対応していくか、無い知恵をしぼり頭をひねる毎日です。
- 【院長 大石雅之】
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- S54年3月:
東京慈恵会医科大学卒業 - S54年4月:
同大学麻酔科にて研修麻酔科標榜医 - S56年4月:
同大学精神神経科に入局医学博士
精神保健指定医 - H3年4月:
栃木県立岡本台病院の診療部長を退職し、
横浜市中区で大石クリニックを開業。
- S54年3月:
当院の歩み
入院治療・閉鎖病棟
外科医をめざして麻酔医からスタートした私ですが、集中治療室で寝たきりの患者様を何年も見るうち、もっと患者様と話ができる医療に係わりたいと思うようになって来ました。そこで、患者様としっかり向かい合う必要のある精神科医になろうと決めました。
精神科医療の中でも特にアルコール依存症の治療に係わることになったのですが、当時アルコール依存症の専門医院はほとんど無く、一般病院の中、飲んで騒いでやってくる患者様を鍵のかかる部屋に入れ、閉鎖病棟に閉じ込め隔離して治療をするしかありませんでした。仕方のないこととはいえ、患者様の自由を奪う治療方法に違和感を覚え、何か他に治す方法はないだろうかと模索する日々でした。
外来治療
そんな中、大阪の釜ガ崎で小杉好弘先生と言う方がアルコール依存症の患者様を外来で治したいと実践されていることを知りました。当時入院以外に治す方法はないとされていた常識から言うと画期的な試みで非常に驚きました。しかし実際に外来治療で治られる患者様が出てきたのです。
私は大阪に何度も足を運び小杉先生をはじめとした外来でのアルコール依存症治療の現場を拝見し体験させていただきました。小杉先生からは断酒会・自助グループ・地域のサポートの大切さを特に学びました。アルコール依存症の治療は入院治療だけでなく外来でも可能だとわかりました。しかし大阪は進んでいましたが東京にはまだ外来で治療できる場所がありません。当時入院によるアルコール依存症治療に携わっていた私は東京でも外来でアルコール依存症を治療できる医院の必要性を強く感じていました。
私は大学病院をやめ外来でアルコール依存症を治療するための専門クリニックを開業することに決めました。当時は精神科のクリニック自体ほとんどなく、相談した先生からも開業するなら内科もやりなさいと言われました。当時は医者が開業する時に銀行に行き融資を断られるなど聞いたこともありませんでしたが、精神科専門外来クリニックをやりますと銀行に融資を申し込んだところ、多数の銀行にきっぱり断られてしまいました。どうにか、つてを頼って開業することが出来たのは平成3年のことです。横浜の地に大石クリニックを開きました。当時のスタッフはたった3人、事務員とワーカー、看護師と私の4人でした。
当時の精神科を取り巻く状況はこんなものでした。入院治療と違い精神科の外来治療は立ちゆかないと考えられていたのです。外来治療は患者様の数をこなさないと経済的に成り立たないのです。ところが精神科医療はおひとりおひとり、患者様と時間をとって、良く話を聞いて進めなければなりません。とても時間がかかります。患者様に大きな負担をかけずに済む外来で治したい、しかし充分に時間をとって治療をしなければならないのに経済的に立ち行かなくなっていく、大きなジレンマでした。
デイケア
そんな中、デイケアという治療法を始めました。一日数時間患者様にクリニックに来て頂き行う治療法です。これによりたくさんの患者様と密に話を聞くことができ、スタッフとの仕事分担・コミュニケーションも増していきました。この頃からデイケアを主体として外来精神科クリニックがなんとかやっていける状況を迎えました。
社会復帰
デイケアに通うことによりお酒を絶つことはできました。しかしそこから卒業していくことができない。その先社会への復帰に道筋がなかったのです。そこで将来患者様の仕事場所になればと高齢者を介護するデイケアを作りました。患者様がスタッフとして働けるようになり、またスタッフもどんどん増えていきました。
現在スタッフは、医師・看護師・臨床心理士・精神保健福祉士(ケースワーカー)・介護福祉士など多彩な職種で約100人を抱えています。横浜でも屈指の大規模クリニックとなりました。
就労移行・自立支援法
平成17年、法律が変わり障害者自立支援法ができました。患者様の仕事復帰の訓練に経済的なバックアップを国がするようになったのです。無職の患者様が就労できる体制がとれるようになりました。
社会復帰・復職してもらうための施設や事業を増やすため人材派遣業・清掃業・介護保険事業など新しい訓練先を次々開発し、患者様の社会復帰に寄与しています。これでやっと経済的にも一般社会に復帰することができるようになりました。
新しい依存症
開業当初、アルコールや薬物などが対象だった依存症ですが、社会の変化と共に色々な疾患が依存症と捉えられるようになり、ネット依存・ギャンブル依存症・買い物依存症・性嗜好障害(性依存症)・窃盗癖(クレプトマニア)・ストーカーなど新たな依存症を抱えた患者様が来られる様になってきました。
20年来の依存症専門治療の経験を踏まえ、新たな依存症疾患に対処しています。
(30年前の私が今のクリニックを見たら、理解できず驚くことと思います。)